フリーランスの産休・育休中、確定申告はどうなる?
「妊娠・出産をきっかけに仕事をセーブしていて、来年の確定申告がどうなるのか不安」というフリーランス・個人事業主の方は少なくありません。会社員なら産休・育休中は給与が止まり、代わりに出産手当金や育児休業給付金が支給されますが、フリーランスはそもそも加入している保険制度が違うため、もらえるお金も申告の考え方も変わってきます。
この記事では、産休・育休期間中に収入がゼロ〜大幅減になったフリーランスが、確定申告で何をどう扱えばよいのかを、経費の線引き・収入ゼロ時の申告要否・2026年10月に始まる新しい年金免除制度まで含めて具体的に解説します。
フリーランスの産休・育休は会社員と何が違うのか
会社員の産休・育休中の収入補償は、健康保険(出産手当金)と雇用保険(育児休業給付金)という「雇用されている人」向けの制度が土台になっています。一方、フリーランス・個人事業主の多くは国民健康保険(国保)に加入し、雇用保険には入っていません。そのため、次の2つは原則として受け取れません。
- 出産手当金:健康保険(協会けんぽ・組合健保など被用者保険)の被保険者が対象で、国民健康保険にはこの制度自体がありません(国税庁 No.1191 配偶者控除でも、出産手当金は健康保険法上の非課税給付として扱われています)。
- 育児休業給付金:雇用保険の被保険者向けの給付のため、雇用契約を結んでいないフリーランスは対象外です。
一方で、国民健康保険に加入していれば出産育児一時金(原則50万円、世帯主に支給)は受け取れます。この一時金は非課税所得で、所得税・住民税の対象にならず、配偶者控除の判定に使う合計所得金額にも含めません。
さらに2026年10月からは、フリーランス・自営業者など「国民年金第1号被保険者」を対象に、子が1歳になるまでの国民年金保険料が免除される新制度が始まります。免除された期間も保険料を納めたものとして将来の年金額に反映される点が特徴で、日本年金機構「令和8年(2026年)10月から国民年金保険料の育児免除制度が始まります」で案内されています。これまで「産前産後の4か月間」しか免除がなかった国保加入のフリーランスにとって、育児期間の負担が大きく軽減される制度です。
これに加えて、出産予定日・出産日が属する月の前月から4か月間(多胎妊娠は3か月前から6か月間)は、従来からの産前産後期間の国民年金保険料免除制度が使えます(日本年金機構「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」)。令和8年度の国民年金保険料は月額17,920円なので、4か月免除されると 17920 × 4 = 71680円の負担が軽くなる計算です。産前産後免除の期間が終わった後に、上記の育児免除(1歳まで)へ続けて適用されるイメージです。
経費にできるもの・できないもの
産休・育休期間中は「仕事をしていないのに経費だけ発生する」状態になりがちです。実際に事業のために支出したかどうかで判断が分かれます。
| 支出項目 | 経費になるか | 考え方 |
|---|---|---|
| 産休・育休中も契約を維持するためのサーバー代・サブスクツール代 | なる場合が多い | 事業を継続するために必要な固定費であれば経費計上できる場合があります |
| 出産・育児に関する書籍代(業務直結のもの以外) | ならない | 家事費(プライベート支出)とみなされ、経費性は認められにくいです |
| 里帰り出産のための交通費 | ならない | 事業経費でも医療費控除の対象でもなく、プライベート支出として扱われます |
| ベビー用品・オムツなど育児用品 | ならない | 明らかに家事費です |
| 出産・妊婦健診・分娩・入院費用 | 経費にはならないが医療費控除の対象になる場合がある | 事業経費ではなく所得控除(医療費控除)の対象。ただし出産育児一時金など補てんされた金額は差し引く必要があります |
| 育休中に外注したライター・デザイナーへの支払い(自分の代わりに業務を回すため) | なる場合が多い | 事業の売上を継続するための直接的な支出であれば経費になる可能性があります |
| 保育園入園準備のための一時保育代(仕事復帰のため) | 経費になる場合がある | 業務遂行に直接必要と説明できる場合に限られ、判断が分かれやすい項目です |
妊婦健診・分娩費・入院費・入院中の食事代、通院のための公共交通機関の交通費は、医療費控除の対象になり得ます(国税庁 No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例)。ただし出産育児一時金や保険金で補てんされた金額は、医療費控除の計算上その支払った医療費から差し引く必要があります。たとえば分娩・入院費用が合計700,000円で、出産育児一時金500,000円を受け取った場合、700000 - 500000 = 200000円が医療費控除の計算対象になる出産費用です。
一時保育代や外注費のように「事業のためか家事のためか」の線引きが難しい支出は、税務署によって判断が分かれることもあります。按分の考え方や個別ケースの可否については、詳しくは所轄税務署や顧問税理士にご確認ください。
実際に自分の経費がどこまで認められそうか、収入と経費のバランスを試算したい場合は、確定申告チェックツールで入力して確認してみることをおすすめします。
確定申告の手順(産休・育休で収入が減った・ゼロの年)
フリーランスの確定申告は源泉徴収票がある会社員と違い、自分で1年分の収入と経費を集計するところから始まります。産休・育休で収入が大きく変動した年は、次の順番で整理すると進めやすくなります。
- 1年分の売上・入金を集計する:産休・育休に入る前の稼働分の入金、育休中に受け取った出産育児一時金(非課税なので事業収入には含めない)を分けて管理します。取引先から支払調書が届く場合もありますが、フリーランスの確定申告には支払調書の添付は不要です(申告額は自分の帳簿ベースで計算します)。
- 必要経費を集計する:上表を参考に、事業継続に必要な支出だけを経費として計上します。
- 所得金額を計算する:売上(収入)から必要経費を差し引いた「事業所得」を出します。ここに出産育児一時金は含みません。
- 所得控除を差し引く:基礎控除のほか、社会保険料控除(国民健康保険料・国民年金保険料。免除された期間分は控除対象になりません)、医療費控除などを差し引きます。令和7年分・令和8年分の基礎控除は、合計所得金額132万円以下であれば95万円です(国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」、詳細な区分は国税庁 No.1199 基礎控除)。これは令和6年分以前の一律48万円から引き上げられた暫定的な措置です。
- 税額を計算し、申告要否を判断する:所得金額から所得控除を引いた「課税所得」がゼロ以下なら所得税は発生しません。
たとえば事業所得が800,000円、社会保険料控除等を含めた所得控除の合計が1,100,000円だった場合、800000 - 1100000 = マイナスとなり、課税所得はゼロ、所得税額もゼロです。
課税所得がゼロで所得税額が発生しない場合、所得税の確定申告は原則不要です。ただし、次のいずれかに当てはまる場合は申告したほうがよいケースが多くあります。
- 源泉徴収された報酬があり、その税額の還付を受けたい場合(申告しないと戻ってきません)
- 青色申告特別控除(55万円・65万円)を使いたい、または赤字を翌年以降に繰り越したい場合(青色申告は申告することが前提の制度です)
- 住民税の申告は所得税の確定申告とは別に必要になる自治体もあるため、収入がゼロでも住民税の申告要否は市区町村の窓口で確認したほうが安心です
- 保育園の入園申込みや児童手当の現況確認などで「収入がゼロだったこと」を証明する書類として、申告した控えを使いたい場合
よくある疑問・間違いやすいポイント
産休・育休期間のフリーランスの申告で特につまずきやすいのが、次のようなケースです。
出産育児一時金を「事業の売上」として帳簿に計上してしまう誤りがよく見られます。出産育児一時金は非課税の給付金であり、事業所得の収入には含めません。誤って売上に計上すると、所得を過大に申告し、払わなくてよい税金を払うことになりかねません。
もう一つは、国民年金保険料の免除を受けた期間分まで社会保険料控除に計上してしまうケースです。免除された保険料は実際に支払っていないため、控除の対象にはなりません。免除を受けた月と、追納・通常納付した月を分けて記録しておく必要があります。
外注費や一時保育代のように「経費か家事費か」の判断が分かれやすい支出を、確認せずにすべて経費計上してしまうと、税務調査で否認されるリスクがあります。事業との関連性を説明できる根拠(契約書・請求書・業務日報など)を残しておくことが大切です。
まずは無料ツールで、産休・育休で収入が変動した年の申告要否や税額の目安を確定申告チェックツールで確認してみましょう。
まとめ
産休・育休中のフリーランスが確定申告前に確認しておきたいポイントを整理します。
- 出産手当金・育児休業給付金はフリーランスには原則支給されないが、国民健康保険の出産育児一時金(50万円・非課税)は受け取れる
- 2026年10月から国民年金第1号被保険者向けの育児期間保険料免除制度(子が1歳になるまで)が始まり、産前産後免除と合わせて活用できる
- 経費になるのは事業継続のために支出したものだけで、育児用品や里帰り交通費などの家事費は経費にならない
- 出産・妊婦健診・分娩費用は医療費控除の対象になり得るが、出産育児一時金など補てん額は差し引く必要がある
- 課税所得がゼロなら所得税の確定申告は原則不要だが、還付・青色申告の特典・住民税申告・収入証明などの理由で申告したほうがよい場合が多い
個別の経費区分や免除制度の適用可否は状況によって判断が分かれるため、具体的な判断は所轄税務署や顧問税理士にご確認ください。
よくある質問
Q. 出産育児一時金は確定申告で申告する必要がありますか?
申告する必要はありません。出産育児一時金は所得税法上の非課税所得にあたり、事業収入にも所得控除の計算にも含めません。医療費控除を受ける場合のみ、支払った出産費用から一時金の金額を差し引く形で影響します。
Q. 産休・育休中に収入がゼロでも確定申告書は提出したほうがいいですか?
課税所得がゼロで所得税額が発生しない場合、所得税の確定申告自体は原則不要です。ただし源泉徴収された報酬の還付を受けたい場合や、青色申告の赤字繰越・特別控除を使いたい場合、収入ゼロを公的に証明する書類が必要な場合は、提出したほうが有利になることが多いです。
Q. 育休中に外注した分の支払いは経費にできますか?
自分の事業の売上を継続するために直接必要な外注であれば、経費になる可能性があります。ただし業務との関連性が曖昧な支出は税務署に否認されるリスクがあるため、契約書や請求書など関連性を示せる資料を残しておくことをおすすめします。判断に迷う場合は税理士へ相談することを検討してください。
Q. 国民年金保険料の産前産後免除と2026年10月開始の育児免除は両方使えますか?
はい、対象となる場合は両方使えます。出産予定日・出産日の前月から4か月間(多胎は3か月前から6か月間)は従来の産前産後免除、その後は2026年10月から始まる育児期間の免除(子が1歳になるまで)へと続けて適用される仕組みです。いずれも免除期間は保険料を納付したものとして将来の年金額に反映されます。