はじめに
フリーランスや個人事業主として働いていると、「厚生年金や退職金がない代わりに、自分で将来の備えをどう作るか」で悩む場面が出てきます。小規模企業共済はその選択肢のひとつで、掛金の全額が所得控除になる数少ない制度です。この記事では、小規模企業共済がどれくらいの節税になるのかを、掛金の金額別・所得水準別に具体的な数字でシミュレーションします。
小規模企業共済とは?フリーランスの退職金づくりと節税を両立する制度
小規模企業共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、個人事業主や小規模企業の役員のための積立制度です。廃業や退職の際に「共済金」として積み立てた分を受け取れる、いわば自分で作る退職金の仕組みで、加入は任意です。
税務上のメリットは、掛金の全額がその年の所得から差し引ける点にあります。これは「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除で、国税庁のタックスアンサーでも「控除できる金額は、その年に支払った掛金の全額」と明記されています(No.1135 小規模企業共済等掛金控除|国税庁)。生命保険料控除のように上限額で頭打ちになる控除とは違い、掛金がそのまま丸ごと所得を圧縮してくれるのが特徴です。
掛金はいくらまで?月々の上限と選べる範囲
掛金月額は1,000円から70,000円まで、500円単位で自由に設定できます。加入後も増額・減額の変更が可能で、納付方法は月払い・半年払い・年払いから選べます(小規模企業共済の掛金|中小機構)。年間で見ると、最低12,000円から最大840,000円までの範囲で積み立てる計算になります。
無理のない金額を選ぶには、まず自分の年間キャッシュフローと課税所得のレベルを把握することが前提になります。節税額シミュレーターで計算すると、掛金額を変えたときに手取りと税負担がどう動くかをおおまかに確認できます。
掛金別・所得水準別の節税額シミュレーション
節税額は次の式で概算できます。
節税額 = 掛金の年額 ×(所得税率+住民税率10%)
所得税は課税される所得金額に応じて5%〜45%の7段階の累進税率です(No.2260 所得税の税率|国税庁)。住民税の所得割は自治体を問わずほぼ一律10%が標準税率です。この2つを合わせた「限界税率」に掛金の年額を掛けると、その年に軽くなる税負担のおおよその目安がわかります(実際には復興特別所得税が別途上乗せされるため、軽減額はこの目安よりわずかに大きくなります)。
まず、課税所得が330万円超695万円以下(所得税率20%、住民税と合わせて30%)の人を例に、掛金の金額別に節税額を計算してみます。
| 掛金月額 | 掛金年額 | 節税額の目安(税率30%の場合) |
|---|---|---|
| 10,000円 | 120,000円 | 36,000円 |
| 30,000円 | 360,000円 | 108,000円 |
| 50,000円 | 600,000円 | 180,000円 |
| 70,000円(上限) | 840,000円 | 252,000円 |
計算式で示すと、月3万円(年36万円)を積み立てた場合は次のとおりです。
360000 × 0.30 = 108000
年間の節税額は108,000円、つまり掛けた金額の3割が税金の軽減という形で戻ってくる計算になります。
次に、掛金を年36万円(月3万円)に固定して、課税所得の水準による違いを見てみます。
| 課税所得の目安 | 所得税率 | 住民税を含めた合計税率 | 節税額(掛金年36万円の場合) |
|---|---|---|---|
| 195万円未満 | 5% | 15% | 54,000円 |
| 195万円超330万円以下 | 10% | 20% | 72,000円 |
| 330万円超695万円以下 | 20% | 30% | 108,000円 |
| 695万円超900万円以下 | 23% | 33% | 118,800円 |
| 900万円超1,800万円以下 | 33% | 43% | 154,800円 |
同じ掛金でも、課税所得が高い(適用される税率が高い)人ほど節税効果が大きくなるのがわかります。逆に、事業を始めたばかりで課税所得が低い年は、控除による節税メリットよりも手元資金を残す判断の方が合理的な場合もあります。ご自身の実際の課税所得での金額を確認したい場合は、節税額シミュレーターで計算すると掛金額ごとの目安を試算できます。
確定申告での手続き — 小規模企業共済等掛金控除の書き方
小規模企業共済等掛金控除を受けるには、確定申告書の「小規模企業共済等掛金控除」の欄に年間で支払った掛金の合計額を記入し、中小機構から送られてくる「掛金払込証明書」(電磁的記録印刷書面を含む)を確定申告書に添付または提示する必要があります(No.1135 小規模企業共済等掛金控除|国税庁)。年払い・半年払いの場合は、その年に実際に口座振替された金額が対象になる点に注意してください。証明書は毎年秋ごろに送付されるため、確定申告の時期まで紛失しないよう保管しておくことが大切です。
加入前に知っておきたい注意点 — 元本割れと受け取り時の課税
節税額だけを見て掛金を決めると、あとで資金繰りに困ることがあります。とくに次の2点は事前に理解しておく必要があります。
1点目は、任意解約した場合の元本割れリスクです。掛金納付月数が240カ月(20年)に達する前に任意解約すると、解約手当金が掛金合計額を下回る場合があります。廃業を理由に共済金を受け取るケースでは、この元本割れは生じません(小規模企業共済にデメリットはあるの?|中小機構)。
2点目は、受け取るときの税金の扱いです。廃業などで受け取る共済金Aや共済金Bは退職所得として扱われ、退職所得控除の適用や課税対象が2分の1になる優遇があります。一方、65歳未満で任意解約した場合の解約手当金は一時所得として扱われ、退職所得ほどの優遇は受けられません。掛金拠出時の節税額だけでなく、将来受け取るときの課税方法まで含めて判断する必要があります。個々の事業状況や解約のタイミングによって有利・不利が変わるため、具体的な判断は所轄税務署や税理士にご確認ください。
まとめ
- 小規模企業共済の掛金は全額が所得控除になり、節税額の目安は「掛金年額×(所得税率+住民税率10%)」で計算できる
- 掛金は月1,000円〜70,000円の範囲で500円単位で選べ、あとから増減額もできる
- 課税所得が高い人ほど、同じ掛金でも節税効果は大きくなる
- 確定申告では掛金払込証明書の添付が必要
- 20年未満での任意解約は元本割れの可能性があり、受け取り方によって税金の扱いも変わるため、長期の資金計画とあわせて検討することが望ましい
よくある質問
Q. 小規模企業共済とiDeCoは両方加入できますか?
併用は可能です。どちらも掛金が全額所得控除になる制度ですが、掛金の上限や受け取り方の条件が異なるため、資金の流動性や将来の受け取り時期を踏まえてどちらにいくら配分するかを検討する必要があります。判断に迷う場合は税理士に相談することをおすすめします。
Q. 掛金はいつでも減額できますか?
掛金月額は加入後に増額・減額のどちらも可能です。ただし、事業の状況によっては減額の手続きに一定の条件が設けられている場合があるため、変更を検討する際は中小機構の窓口や委託機関に確認するのが確実です。
Q. 節税額のシミュレーションはどこで確認できますか?
このページで紹介した計算式(掛金年額×合計税率)で概算できるほか、節税額シミュレーターで計算するを使うと、自分の掛金額を入力して目安の節税額をすぐに確認できます。
Q. 赤字の年でも掛金を控除できますか?
所得控除は所得金額から差し引く仕組みのため、その年の所得がゼロまたはマイナスの場合は控除しきれない部分が生じることがあります。事業の収支が不安定な年は、無理のない掛金額に見直すことも選択肢のひとつです。